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西風神の使徒 翡翠の閃光
最終更新日2019年1月9日
翡翠の閃光 キリシマミドリシジミ Chrysozephyrus ataxus
日本に棲息する、25種類におよぶゼフィルスのなかでキリシマミドリシジミは最も美しいものの一つである。
オス
オスの翅表は金緑に輝き、メスの翅表には青藍色の斑紋が広がる。
オス長尾型
神奈川県足柄下郡
オス短尾型
神奈川県足柄下郡
メス短尾型
その美しさから西風神にもっとも愛されているゼフィルスだろう。
オスメスともに美しいキリシマミドリシジミではあるが、ここで特筆すべきことは、オスとメスの翅裏の違いである。
キリシマミドリシジミ以外のゼフィルスは多少の地色の違いはあるにしても斑紋の模様は同じである。
しかしながらキリシマミドリシジミのオスとメスの翅裏は別種のように異なるのである。
さらにキリシマミドリは神奈川県足柄下郡にて、尾状突起の長い型と短い型が出現するのである。
日本に棲息するゼフィルスのなかで、そんなシジミチョウはキリシマミドリ以外には存在しない。
キリシマミドリシジミは実に不思議で、魅力的なゼフィルスである。
長尾型 神奈川県足柄下郡 2017年8月
キリシマミドリシジミの暮らし
キリシマミドリシジミの幼虫の主な食樹はアカガシである。アカガシはブナ科の常緑樹。
そしてキリシマミドリシジミは卵のステージで冬を越し、幼虫はアカガシの芽吹きに合わせるように孵化して、アカガシの若葉を食しながら、数回脱皮して成長する。
十分に成熟した終齢幼虫は幹を降り、根元か地表の落ち葉の裏で蛹化すると推測する。
初夏の頃、羽化する。
その周期生態は他のゼフィルスのなかまと同様である。
巣をつくる幼虫
多くの蝶の幼虫は、鳥や寄生虫などの捕食者から身を守るために生存を確かにする戦略をもっている。
ゼフィルスの幼虫にもそれぞれ戦略がある。
キリシマミドリシジミの幼虫はアカガシの若葉で巣を作る。そしてそのなかに身を隠す。
幼虫の巣 2018年 5月5日
若葉を重ねて綴る。
キリシマミドリシジミの若齢幼虫 2018年 5月5日
綴り合わせてある葉をめくると幼虫が現れる
別の巣、やはり幼虫は、その内部に潜んでいた 2018年 5月5日
孵化した幼虫が抜けた卵殻 2018年 5月5日
芽の基部に3つの卵殻と1つの卵殻が確認できる。1頭の雌によって産みつけられた卵か?
キリシマミドリシジミの終齢幼虫
終齢幼虫 淡い黄緑色をしている
体色が変わった終齢幼虫
終齢幼虫の体色は淡い黄緑色である。そして幼虫が十分に成長し、老熟すると体色が鮮明な赤色に変化する。
蛹になる前兆である。その色彩変化には驚かされる。
キリシマミドリシジミの蛹
クヌギの葉裏で蛹化した
鮮やかな赤色に変わった幼虫のいる飼育容器のなかにクヌギなどの落ち葉を入れておくと、幼虫は大概その落ち葉の裏で蛹化する。野外でも地表の落ち葉のなかに潜り込んで、その裏で蛹になると思う。
まさに落ち葉の色に同調して捕食者から身を隠さんとする蛹の見事な変身術である。
幼虫は自らの身を委ねる棲息環境を理解しているのか?蛹になる時、その色調が落ち葉に同化することを知っているのか?小さな生き物と言えどもその深遠な生態にはいつも驚かされる。
母蝶の産卵
画面中央のアカガシの葉上で休息するメス 2018年8月22日 神奈川県足柄下郡
ブナ科コナラ属のコナラ、クヌギ、ミズナラ、そしてアカガシの休眠芽は夏至を境に形成されていく。
休眠芽は8月の中旬頃には来春の芽吹きのために大きく成長している。
キリシマミドリシジミのメスは卵を産みつけるに適した大きさになった休眠芽、その基部に1卵から数卵ほど産卵する。
ブナ科のコナラ属の樹木の休眠芽の基部に卵を産みつけるゼフィルスのメスは休眠芽の成長を待たなければならない。まだ休眠芽が小さい夏の暑い期間は夏眠するであろう。
そして休眠芽の成長した8月の下旬頃からメスは夏眠から覚め、産卵活動を開始すると推察する。
メスはアカガシの休眠芽が晩夏の頃までに大きくなることを知っている。そして来春、孵化した子供たちが直ぐに食せるように頂芽、側芽の基部に卵を産みつける。
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