ホーム > 蝶や蛾の世界を慧眼する > オオムラサキ

里山を天翔する日本の蝶の王

最終更新日2018年1月9日


日本の雄大なる堅葉蝶  オオムラサキ 

オオムラサキ Sasakia charonda は日本の国蝶である。日本では一番大きなタテハチョウであり、そしてメスの大きさと重さを考えるならば、東南アジアでは最大級のタテハチョウのひとつといえる。
オオムラサキはおもに日本の里山を生活の場としている。
オオムラサキはクヌギなどの樹液に集まる。オオムラサキは昼間活動するので、なかなかカブトムシやノコギリクワガタと一緒に樹液を吸っている光景には出会えないが、アオカナブンや他の蝶とともにクヌギの樹液で観察できる。でもスズメバチがやってくると追い払われてしまう。

オオムラサキは年一化、6月から7月にかけて現れる。
オオムラサキ成虫羽化2
オオムラサキの幼虫の食樹はニレ科のエノキである。オオムラサキのメスは小さなエノキの木にはまず産卵しない。林縁の北側にある大きく枝を張ったエノキの大樹がメスの好みなのだろう。冬季、その根元から越冬幼虫が見つかる。
産卵は7月の終わりから8月にかけておこなわれるのだろう。
孵化した幼虫はエノキの葉を食べて成長する。
オオムラサキは幼虫のステージで越冬する。秋が深まるとエノキの落葉ともに幼虫も幹を降りて、根元に溜まった落ち葉のなかに入り込み、そのなかで冬を越す。
どの段階で幼虫の体色が緑から茶色に変化するか、わからないが越冬する幼虫は落ち葉と同系色になり、落ち葉の階層下に紛れ込む。幼虫の体色の変化は不思議である。

エノキの根元で静かに冬を越した幼虫は春の芽吹きとともに、エノキの幹を登っていく。越冬から覚めたばかりの幼虫は枝股辺りに台座をつくるらしい。

やがてオオムラサキの幼虫はエノキの葉表に台座を作り、そこに静止している。摂食はその台座を離れ、周囲の葉を食してもとの台座に戻ってくる。謂わば台座は生活の行動拠点である。
十分に成長した終齢幼虫は蛹化する場所を探す。そして必ず葉裏にて前蛹になる。
日本に棲息するタテハチョウのなかで最も巨大な蛹は、実にエノキの葉と同化する。美しいオオムラサキの蛹は色合いや形がエノキの葉を模倣しているかのごとく、エノキの大樹の葉繁みに紛れて、羽化の時期を静かに待つ。

オオムラサキの越冬幼虫 東京都八王子市にて 2015年


近年、オオムラサキの幼虫に混じって、エノキの根元にてアカボシゴマダラチョウの幼虫が見つかる。アカボシゴマダラチョウの幼虫もオオムラサキと同じく、エノキの葉裏で越冬している。アカボシゴマダラチョウの隆盛のためかわからないが、ゴマダラチョウの越冬幼虫をみることが少なくなったように感じる。
元来、アカボシゴマダラチョウは日本の本州には棲息していなかった。いつ、どのような経路で侵入したのかわからないが、2015年において神奈川県川崎市、横浜市ではすっかり定着して、エノキのある市街地の公園などで蝶姿を普通に見ることができる。

アカボシゴマダラチョウの幼虫





越冬から覚め、エノキの新葉を食べ、休眠する幼虫

脱皮をして、茶灰色から鮮やかな緑色に変わった幼虫 おそらく4齢幼虫

終齢幼虫 エノキの葉が重そう


エノキの葉裏にて前蛹

美しい緑白色の蛹となる。白い粉状のものが蛹の表面を覆う。長さおよそ40mm、幅11mmを超える。
日本に棲息する蝶のなかで最大級の蛹



蛹になってから3週間くらいでオオムラサキは羽化する。

オオムラサキ成虫羽化




同一の地域での個体変異
 オオムラサキの地理的変異 スギタニ型とは? 


2015年の冬季、東京都八王子市で採集したオオムラサキの幼虫を飼育したところ、翅裏の色が淡黄色とやや白色を帯びた蝶の個体が羽化した。
白色を帯びた個体は淡黄色の個体よりも、赤紅色の後翅肛角部の斑紋も薄い。この個体が所謂、スギタニ型の資質をもったオオムラサキなのであろう。
オオムラサキのスギタニ型とは翅裏面の白化が著しく、赤紅色の後翅肛角部の斑紋が消失する型である。四国や近畿地方に多いオオムラサキの型である。

  東京都八王子市産のノーマルな個体 赤紅色の後翅肛角部の斑紋がはっきりしている

 東京都八王子市産の白化した個体 赤紅色の後翅肛角部の斑紋が淡い

  東京都八王子市産の白化した個体とノーマルな個体を並べてみる




日本海側の新潟県上越市に棲息するオオムラサキにおける翅裏は黄色味が強まる。

翅裏 新潟県上越市産飼育 東京都八王子市産の個体よりも明らかに黄色味が強い 翅表 同新潟県上越市産 



関東以北に棲息するオオムラサキは、特に裏面が黄色になる。北上するに従ってどんどん黄色が濃くなっていくのあろう。
どうして北上とともに黄色化していくのかわからないが、黄色はオオムラサキを引き立てる色彩である。

オオムラサキは雄大なタテハチョウである。バサバサと音を立てながらクヌギの樹液に集まる。雄は夕刻になると雑木林が一望できる高いところにテリトリーを張る。そこに侵入したものを勇猛に追い払う。まさしく里山を統べる王だ。




オオムラサキはどこにいる?
 関東エリアでオオムラサキを探す 

2018年


オオムラサキは主に里山で暮らしている。標高を1500メートルを超える高地には少ない。
近年、オオムラサキが減少しているという話を耳にする。
そうした状況を踏まえて、関東におけるオオムラサキの生息しているところを確認していきたい。



東京都あきる野市
2018年


このエノキの根元に幼虫が越冬していた。





東京都八王子市
2018年


オオムラサキの幼虫のなかに混じってゴマダラチョウの幼虫がいる

神奈川県秦野市
2018年

ここでもゴマダラチョウの幼虫と一緒にエノキの根もとで越冬している


2019年






ページの先頭へ