ホーム > 蝶や蛾の世界を慧眼する > ウラゴマダラシジミ
ゼフィルスとよばれる蝶の仲間がいる。
ゼフィルスは日本の森林に棲息しており、6月から7月にかけて出現して、東雲や黄昏に艶やかに木々の梢を飛翔する。
日本にはおよそゼフィルスは25種が棲息している。そのなかでウラゴマダラシジミはなかなかの変わり種である。
分類においてウラゴマダラシジミは当初、ヒメシジミやルリシジミの仲間だと考えられていた。確かにウラゴマダラシジミの外見を見れば、他のゼフィルスのように尾状突起はないし、翅も丸い。ヒメシジミやルリシジミの仲間と似ている。ところが研究が進んでウラゴマダラシジミは真性ゼフィルスに属するすることがわかった。ウラゴマダラシジミは原始的なゼフィルスなのだ。
ウラゴマダラシジミ♀ 神奈川県秦野市 2014年5月末
ルリシジミ 神奈川県秦野市 2014年5月 大きさは兎も角、やはりウラゴマダラシジミと似ている
イボタに産みつけられた卵 神奈川県秦野市 2014年5月末
ウラゴマダラシジミの艶やかな蝶姿が見られるのは5月の中旬から。ちょうどイボタの花が咲く頃である。その花に吸蜜にくるウラゴマダラシジミを観察できる。
雌がイボタに産卵するのは、神奈川県秦野市では5月の終わりから6月のはじめ。
イボタの花が盛りを過ぎた頃に、イボタの木のところで待っているとウラゴマダラシジミの雌がやってくる。
メスは卵が来春の孵化まで過ごせる最も適した場所を探して産みつける。
イボタの幹や枝に産みつけられたばかりの卵は美しいワインレッド色をしており、形をみても、とても蝶の卵とは思えない。
でも時間に経つにつれて美しいワインレッド色は退色していく。まるでイボタの芽に似せていくようだが。
採集したメスに産ませた卵、卵塊を作った
1齢幼虫
2齢幼虫
3齢幼虫
終齢幼虫
前蛹
蝶の生態を観察するうえで、野外で蝶の蛹を探すことほど骨の折れることはないだろう。
蝶にとって蛹のステージほど無防備な時はない。外敵に襲われた時、蛹はそれ自体動いて逃げることができない。その意味では卵のステージも同じではあるが、卵は小さいし、外殻は硬いので、鳥たちにとってあまり捕食の対象にはならない。
多くの蝶の幼虫は成熟すると食草や食樹から離れて蛹になる場所を探す。それ故に蛹はフィールドのなかに隠れてしまう。
蛹の探索が困難をきわめる蝶の仲間のなかで、ウラゴマダラシジミは比較的、蛹が発見しやすく、観察しやすい。
それはウラゴマダラシジミは、幼虫の食樹であるイボタの葉裏に蛹化するからだ。そしてそれは不可思議なことなのだが、幼虫は蛹化する葉に特異な目印を残す。
イボタの樹上にある蛹の目印 神奈川県横浜市青葉区 2015年5月
裏には蛹がある
上から見る
その裏側 神奈川県横浜市青葉区 2015年5月
上から見る
裏側では蟻がまとわりつく 神奈川県横浜市青葉区 2015年5月
神奈川県秦野市産ウラゴマダラシジミ
神奈川県秦野市に棲息するウラゴマダラシジミは後翅が黒化する。
東京都八王子市産ウラゴマダラシジミ
東京都八王子市周辺に棲息するウラゴマダラシジミは前翅、後翅とも青紫白色の斑紋は発達している。
神奈川県秦野市に棲息するウラゴマダラシジミが森林型。
東京都八王子市周辺に棲息するのが原野型と分けられる。
ただ両地域とも丘陵地であり、その棲息環境は似ている。
ウラゴマダラシジミの蛹の習性といい、翅表の斑紋の地理的変異といい、原始的なゼフィルスとされているウラゴマダラシジミではあるが、その生態は奥深く、魅力的なゼフィルスである。